生成AIの利用にはインターネット接続が必要?クラウドとローカルの違いを解説

生成AIの利用にはインターネット接続が必要?クラウドとローカルの違いを解説

生成AIを活用する際、多くのサービスがインターネット接続を前提としています。しかし、セキュリティの観点から、インターネットに接続できない環境でAIを利用したいと考える企業も少なくありません。

生成AIがインターネットを必要とする理由には、大規模な計算リソースの確保や高性能なクラウド環境の活用があります。一方で、ローカル環境でもAIを運用する方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。

この記事では、クラウドAIとローカルAIの違いや、セキュリティを考慮したAIの活用方法について解説します。安全かつ効果的に生成AIを活用するためのポイントを押さえ、自社に最適な運用方法を検討しましょう。

目次

生成AIの仕組みとクラウドの役割

生成AIは、文章や画像を生成する高度な人工知能であり、その根幹には大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)やディープラーニング技術が存在します。このセクションでは、生成AIの基本的な動作原理と、クラウドが果たす役割について解説します。

生成AIはどのように動作するのか?学習と推論の役割

生成AIは、テキストや画像を生成する人工知能の一種です。このAIが機能するためには、「学習」と「推論」という2つのプロセスが必要になります。

「学習」ではAIが大量のデータをもとに知識を蓄積し、「推論」ではその知識を活用してユーザーの入力に応じた回答を生成します。この2つのプロセスには膨大な計算が必要となるため、多くのAIシステムはクラウド環境を活用しています。

学習(トレーニング)

学習とは、AIが大量のデータをもとにパターンを学び、予測や生成の能力を向上させるプロセスです。この段階では、以下のような膨大な計算が行われます。

  • 数千億~数兆のパラメータを持つモデルの重み(パラメータ)を最適化する
  • 数十TB~PB(ペタバイト)規模のテキストデータや画像データを処理
  • 数千~数万のGPUを並列稼働させ、数週間~数カ月かけてモデルを訓練

この処理を行うため、AIモデルの学習には膨大な計算資源が必要となり、個人や一般企業がローカル環境で実行するのはほぼ不可能です。

推論(インフェレンス)

推論とは、すでに学習済みのAIモデルがユーザーの入力に対して、適切な応答を返すプロセスです。例えば、次のような処理が該当します。

  • 入力:「この文章の続きを生成してください」
  • AIの処理:「これまでの学習データとパターンをもとに最適な単語を予測し、文章を生成」
  • 出力:「このようにして、文章が続いていきます。」

学習と比較すると、推論の計算負荷は低いですが、それでも大規模なLLM(GPT-4など)の場合は、1回の応答生成に数十GBのメモリを使用するため、高性能なGPUを備えた環境が求められます。

クラウドでの学習・推論のプロセス

クラウド環境では、AIの学習と推論がスムーズに行えるよう、強力なハードウェアと最適化されたソフトウェアが用意されています。クラウドでのプロセスを簡単に説明します。

クラウドでの学習

クラウドAIサービス(例:Azure OpenAI、Google Vertex AI、AWS SageMakerなど)では、以下のような流れでモデルが学習されます。

  1. 膨大な学習データの準備
    • 書籍、論文、Web記事、SNS投稿などの大規模データセットを収集
  2. GPU/TPUクラスタで並列学習
    • 数千台のGPUやGoogleのTPU(Tensor Processing Unit)を使用してモデルを訓練
  3. 最適化とモデル更新
    • 学習データをもとにAIがパラメータを調整し、より精度の高いモデルへアップデート

クラウドでの推論

クラウドでは、以下のような仕組みで推論が行われます。

  1. ユーザーがAIにリクエストを送信(例:「文章を要約してください」)
  2. クラウドAIが高性能GPUで計算処理を実行
  3. 最適な応答を生成し、ユーザーに返答

クラウド上の推論は、大量のリクエストを並列処理できる仕組みが整っており、多くのユーザーが同時にAIを利用してもスムーズに応答を受け取ることができます。

なぜクラウドが高速処理に適しているのか

クラウド環境が生成AIに適している理由はいくつかあります。

1.高性能な計算リソースを活用できる

  • クラウドプロバイダーは、NVIDIA H100/A100 や GoogleのTPU などの超高性能GPUを提供
  • ローカル環境では不可能な大規模な並列計算を実行できる

2.スケーラビリティが高い

  • 必要に応じて計算リソースを動的に増減可能(需要に応じたリソースの自動調整)
  • 一時的に負荷が高まっても、スムーズに処理が継続できる

3.最新の技術を活用できる

  • クラウドベースのAIは、定期的に最新技術にアップデートされる
  • 新しいアーキテクチャや最適化技術を即座に利用可能

4.専門的なインフラ管理が不要

  • クラウドでは、AIの運用・保守がプロバイダー側で管理されるため、利用者は環境構築やチューニングの負担を軽減できる
  • ローカル環境では、高性能GPUの管理や電力消費の問題があるが、クラウドではその心配がない

生成AIはなぜクラウドサーバを利用するのか?

生成AIを利用する際、多くのサービスがクラウドサーバを経由して動作します。なぜなら、生成AIが膨大な計算リソースを必要とし、一般的なPCや企業のローカルサーバでは十分に処理できないためです。

ここでは、「大規模言語モデル(LLM)の計算負荷」と「高性能ハードウェアの必要性」という2つの視点から、クラウド利用の理由を解説します。

1. 大規模言語モデル(LLM)の計算負荷

LLMとは何か?

生成AIは、多くの場合、大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)を活用しています。LLMは、人間のように自然な文章を作成したり、質問に対して適切な回答を生成したりするために、膨大な量のデータを学習し、数十億~数兆のパラメータを持つモデルです。

例えば、以下のようなLLMが知られています。

  • GPT-4(数百GB~1TB規模のモデル)
  • LLaMA 3 7B(約8GBのVRAMが必要な軽量モデル)
  • Claude 3(高度な文脈理解を持つモデル)

なぜ計算負荷が大きいのか?

LLMは、ユーザーの入力に対して「次にどの単語を出すのが最適か?」を推測しながら文章を生成します。この処理では、大量のデータと複雑な数式を組み合わせて計算が行われます。

具体的には、以下です。

  • 数十億のパラメータを持つモデルでは、毎回の処理で膨大な計算が発生する
  • 1回の応答生成にも数GB以上のメモリを使用し、高速な演算能力が必要
  • モデルが大きいほど処理が遅くなり、ローカルPCでは対応しきれない

例えば、GPT-4クラスのモデルをローカルPCで動作させようとすると、数百GB~1TB以上のメモリが必要となり、通常のパソコンでは実行が難しくなります。

ローカルPCとの比較

モデル推奨VRAMストレージ容量実行可能な環境(目安)
GPT-3.5数十GB~100GB数百GB~1TBクラウド専用
GPT-4数百GB~1TB1TB以上クラウド専用
LLaMA 3 7B約8GB約15GB高性能NPU/GPUならローカル可能
LLaMA 3 13B約16GB約30GBゲーミングPCならローカル可能
LLaMA 3 65B約80GB約100GBクラウド必須

上記の表の通り、ローカルPCで動かせるのは軽量モデルのみであり、高性能なLLMはクラウド環境が必須となります。

2. 高性能ハードウェアの必要性

LLMの計算負荷を支えるためには、専用の高性能ハードウェアが不可欠です。しかし、こうしたハードウェアを個人や企業が独自に用意するのは、コスト面でも技術面でも現実的ではありません。
このため、クラウドの利用が一般的になっています。

(1) 高性能GPUの活用

LLMの処理には、通常のPCに搭載されているCPUではなく、AI処理に特化した**GPU(グラフィックボード)**が必要です。
クラウドAIサービスでは、以下のような高性能GPUを利用しています。

  • NVIDIA A100 / H100(AI処理に特化したデータセンター向けGPU)
  • Google TPU(Tensor Processing Unit)(Google独自のAI専用チップ)
  • AWS Inferentia / Trainium(AmazonのAI処理向けカスタムチップ)

例えば、NVIDIA H100は、一般的なゲーミングPCのGPU(RTX 4080など)と比べても、
AI処理に最適化されており、数十倍以上の速度で推論を実行できます。

こうしたハードウェアをローカル環境で導入するのは、コスト面や技術面で非常に負担が大きいため、クラウドサービスを利用することで、必要な時にだけ最新のハードウェアを使うことができるのが大きなメリットです。

(2) 高速なメモリとストレージ

AIの推論では、大量のデータを一瞬で処理するため、メモリとストレージの速度も重要です。

  • GPUのVRAM(ビデオメモリ) → AIが一時的にデータを保存し、高速処理を行うために不可欠
  • SSD(超高速ストレージ) → AIのモデルデータを素早く読み込むために必要

例えば、GPT-4クラスのモデルでは、最低でも512GB以上のメモリが必要となることもあり、
一般的なPCでは対応が難しい状況です。

(3) 電力・冷却の問題

AI処理は、大量の電力を消費し、発熱も大きいため、クラウドデータセンターでは専用の冷却システムが導入されています。
仮に、個人や企業が同じ環境を用意する場合、

  • 高額な電気代(GPUの長時間稼働による消費電力)
  • サーバールームの冷却対策(発熱を抑えるための冷却設備)
    といったコストが発生し、クラウド利用よりも非効率になってしまいます。

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ローカルでの AI 処理はどこまで可能か?

生成AIを利用する際、クラウドを経由せずにPCや社内サーバーのローカル環境で処理したいケースもあります。特に、機密情報を扱う企業やインターネット接続が制限されている環境では、ローカルでのAI運用を検討することが多くなります。

しかし、現時点でローカル環境だけで高性能な生成AIを運用するには多くの課題があります。ここでは、「LLMのサイズが大きすぎる」「トレーニングは不可能」「高品質なAIサービスの利用が難しい」という3つの視点から解説します。

1. LLMのサイズが大きすぎる

LLMのモデルサイズとローカル環境の制約

大規模言語モデル(LLM)は、数十億~数兆のパラメータを持つ巨大なモデルです。このモデルをローカル環境で処理するには、膨大なメモリ容量や計算リソースが必要になります。

一般的なPCでは、こうしたモデルを適切に処理できるだけのスペックが不足しているため、ローカル環境で利用できるのは比較的軽量なモデルに限られるのが現状です。

PCスペック別の実行可能なAIモデル

ローカル環境でAIを動かす際、使用するPCのスペックによって、実行可能なAIの種類が異なります。
以下の表は、PCの種類ごとにどのレベルのAIが動作可能かを示したものです。

環境実行可能なAIモデル必要なVRAM備考
一般的なPC8GB未満AIの実行は困難
ゲーミングPCLLaMA 3 7B, LLaMA 3 13B8GB~16GB軽量なモデルなら実行可能
ワークステーション級PCLLaMA 3 65B, 小規模なカスタムLLM32GB~80GB限定的な用途なら可能
専用サーバー一部の大規模モデル80GB以上クラウドと同等の環境を構築可能だがコストが高い

ローカル環境で利用できるAIは、基本的に軽量化されたモデルに限定されるため、GPT-4クラスの大規模モデルをPCで実行するのは現実的ではないと言えます。

2. トレーニングはローカルで不可能

LLMの学習には膨大な計算資源が必要

AIモデルは、事前に大量のデータを学習してから利用されます。
この学習プロセス(トレーニング)は非常に負荷が大きく、通常、クラウドデータセンターの専用サーバーで実行されます。

例えば、最新のLLMは以下のような環境で学習されています。

  • 数千~数万のGPUを並列で使用
  • 数週間~数カ月かけてデータを処理
  • 数十TB~PB(ペタバイト)規模の学習データを利用

このように、ローカルPCや社内サーバーではLLMのトレーニングは現実的に不可能です。

企業向けの学習モデルもクラウド依存

一部の企業では、自社データを活用してAIモデルをカスタマイズすることがあります。しかし、これもクラウド上の環境を利用することが一般的です。

例えば、

  • ファインチューニング(既存モデルの微調整) → クラウド上の専用環境で実施
  • RAG(Retrieval-Augmented Generation:外部データ参照型AI) → クラウドストレージと連携

このように、LLMの学習やカスタマイズには大規模なインフラが必要であり、ローカル環境では「AIを学習させる」ことはほぼ不可能と言えます。

3.高品質なAIサービスの利用が難しい

クラウド前提のAIサービス

最新の生成AIは、クラウド上で最適化された環境で動作することを前提としています。特に以下のようなサービスは、ローカル環境では十分なパフォーマンスを発揮できません。

  • ChatGPT(GPT-4) → 高度な推論処理をクラウドの超高性能GPUで実行
  • DALL·E(画像生成AI) → クラウドベースで処理し、高速な画像生成を実現
  • 音声合成・動画生成AI → データ処理が重いため、クラウド環境が必要

ローカル環境で同様のサービスを構築する場合、

  • 性能が制限される(処理速度や精度が低下)
  • 利用可能なモデルが限定される(軽量なモデルのみ)
  • 運用コストが高くなる(専用GPUやメモリの増設が必要)

このため、高品質なAIサービスを継続的に利用するには、クラウドが不可欠となります。

今後のローカルAIの可能性

一方で、ローカル環境で動作するAI技術も進化しています。

  • NPU(Neural Processing Unit)を搭載したPC(Copilot+ PC など)が登場
  • LLaMA 3のような軽量モデルは、高性能なゲーミングPCでの実行が可能
  • エッジAI(カメラやIoTデバイス向けの軽量AI)が普及

現時点では、ローカルAIの性能は限定的ですが、今後の技術進化によってより高度な処理が可能になる可能性はあります。

データセキュリティとプライバシーの課題

生成AIを活用する際、データのセキュリティとプライバシー保護は重要な課題です。特に、クラウドAIを利用する場合、企業や個人の機密情報が外部サーバーに送信されることになるため、適切な管理が求められます。

本セクションでは、クラウドAIのセキュリティリスク、データ保護規制(GDPR・個人情報保護法)、および主要なセキュリティ対策について解説します。

1. クラウドAI利用時のセキュリティリスク

クラウドAIは強力な計算能力を活用できる一方で、データを外部のサーバーに送信することによるリスクが発生します。主なリスクとして、以下のような点が挙げられます。

(1)データ漏えいのリスク

クラウド環境にデータを送信することで、以下のような漏えいリスクが考えられます。

  • AIベンダーのシステム障害や情報流出によるデータ漏えい
  • 内部不正(クラウド運営企業の管理者による不正アクセス)
  • 第三者の攻撃(ハッキングや不正アクセス)

特に、機密情報を含むデータを送信する場合、クラウド事業者のセキュリティポリシーやデータ管理体制を確認することが重要です。

(2)データの二次利用のリスク

一部のクラウドAIサービスでは、送信されたデータをAIの学習に利用する場合があります。そのため、以下のリスクが生じる可能性があります。

  • 機密情報や個人データがAIの学習データに組み込まれる
  • 企業の知的財産や顧客データが流出する可能性がある

クラウドAIを利用する際は、データの取り扱いポリシーを事前に確認し、必要に応じて学習データとして利用されない設定を行うことが重要です。

(3)規制対応のリスク

クラウドAIのデータ処理は、各国の法律や業界ごとの規制に適合する必要があります。特に、個人情報保護やデータの保存場所(データ主権)に関する規制が厳しくなっています。

2. GDPR・個人情報保護法における規制

クラウドAIを利用する際、データの取り扱いは国際的な規制の影響を受けます。特に、EUの「GDPR(一般データ保護規則)」や日本の「個人情報保護法」は、企業がAIを活用する上で考慮すべき主要な法規制です。

GDPR(一般データ保護規則)

GDPRは、EU圏内の個人情報を保護するための法律であり、クラウドAIの利用にも影響を与えます。特に、以下の点が企業のAI利用に関係します。

規制項目内容
データ主体の権利ユーザーは自分の個人データを削除・修正・取得できる権利を持つ
データ転送の制限EU圏内の個人データを海外のサーバーに転送する場合、特定の要件を満たす必要がある
データの最小化原則企業は、必要最小限のデータのみを収集・処理しなければならない
AIの透明性要件AIが自動意思決定を行う場合、企業はその仕組みを説明する義務がある

特に、クラウドAIがEUの個人データを処理する場合、データの保存場所や転送ルールを厳密に管理する必要があるため、AIサービスを選定する際にはGDPR対応の有無を確認することが求められます。

日本の個人情報保護法

日本では、「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」があり、クラウドAI利用時にも適用されます。特に、以下の点が企業のAI活用に関係します。

  • データの第三者提供:本人の同意なしに個人情報を第三者(AIベンダーなど)に提供することは禁止
  • データの匿名化:個人情報を利用する場合、適切な匿名化措置が求められる
  • 越境データ移転:国内データを海外サーバーに保存する場合、利用者への明示が必要

日本国内の企業がクラウドAIを利用する場合、個人情報が海外サーバーで処理されるケースがあるため、クラウドサービスのデータ管理ポリシーを確認することが重要です。

3. セキュリティ対策(データ暗号化・匿名化技術)

クラウドAIのセキュリティリスクを軽減するためには、適切な対策を講じることが重要です。主なセキュリティ対策として、以下のような手法があります。

データの暗号化

クラウドに送信するデータを暗号化することで、第三者による不正アクセスを防ぐことができます。

  • TLS/SSL通信:データ送信時の暗号化
  • エンドツーエンド暗号化(E2EE):データの保存・処理中も暗号化を維持
  • クライアントサイド暗号化:データを送信前にローカルで暗号化

特に、機密性の高いデータを扱う場合、クラウド側だけでなく、ローカル環境での暗号化処理も導入することが望ましいです。

データの匿名化・マスキング

個人情報や機密データを含む情報をクラウドAIに送信する際、データを匿名化することでプライバシーを保護できます。

  • データマスキング:氏名や住所などの重要情報を伏せ字化
  • Pseudonymization(仮名化):元のデータと照合できない形に変換
  • トークナイゼーション:データをランダムな識別子に置き換える

企業がクラウドAIを活用する際には、データの匿名化技術を適用することで、プライバシーリスクを低減できるため、特に金融・医療・行政機関などでは積極的に導入が進んでいます。

セキュリティを考慮したAIの利用

生成AIの活用には、セキュリティ対策が欠かせません。特にクラウドAIでは、データの管理や外部アクセスのリスクを考慮する必要があります。また、機密情報を扱う環境では、クラウドAIの代わりにローカルAIを利用する選択肢もあります。ここでは、クラウドAIの安全な運用方法と、ローカルAIの活用について解説します。

クラウドAIを安全に利用する方法

クラウドAIの利便性を活かしつつ、データの安全性を確保するには、適切なネットワーク環境と専用クラウドの利用が有効です。

閉域ネットワークの活用

インターネット経由のデータ送信は、不正アクセスや情報漏えいのリスクを伴います。これを防ぐために、閉域ネットワークを利用する方法があります。

  • VPN(仮想プライベートネットワーク):クラウドとの通信を暗号化し、安全にデータを送受信する
  • VPC(仮想プライベートクラウド):クラウド内に独立した専用ネットワークを構築し、外部からのアクセスを制限する
  • 専用回線(Direct Connect、ExpressRouteなど):クラウドと企業ネットワークを直接接続し、インターネットを経由しない環境を構築する

専用クラウド環境の利用

一般的なクラウドサービスでは、複数の利用者が同じ環境を共有するため、データ管理のリスクがあります。これに対し、専用クラウドを利用すると、より高いセキュリティを確保できます。

代表的な専用クラウドサービス

  • Azure OpenAI Service:企業向けの閉域ネットワーク対応AI環境
  • AWS Bedrock:機密データを管理しやすいAIプラットフォーム
  • Google Vertex AI:企業専用のAI環境を構築可能

専用クラウドを利用することで、データの保存先を指定でき、アクセス制御も強化されるため、特に機密性の高い業務では有効な選択肢となります。

ローカルAIの活用

クラウドを利用せず、ローカル環境でAIを運用することで、データの外部流出リスクを防ぐことが可能です。特に、以下のような環境では、ローカルAIの導入が適しています。

ローカルAIが適しているケース

用途ローカルAIを利用する理由
機密データの処理データを外部に送信せず、社内で完結できる
ネットワーク制限のある環境官公庁や金融機関など、クラウド利用が制限されている場合
リアルタイム処理クラウド経由の通信遅延を防ぎ、即時処理が可能

ローカルAIの導入方法

ローカル環境でAIを活用するには、適切なハードウェアとソフトウェアの選定が必要となります。

主なローカルAIの導入方法

  • PCでのAI推論:軽量なAIモデルをローカルPC上で実行する
  • エッジAI:小型デバイスやIoT機器にAIを組み込み、クラウドを介さず処理を行う
  • オンプレミスAIサーバー:高性能なGPUを搭載した社内サーバーを構築し、AIを運用する

最近では、NPU(Neural Processing Unit)を搭載したPCも登場し、ローカルAIの実用性が高まっています。

クラウドAIとローカルAIの使い分け

クラウドAIとローカルAIには、それぞれメリットとデメリットがあるため、用途に応じた使い分けが重要です。

項目クラウドAIローカルAI
計算能力高性能なGPUを利用可能処理能力に制約あり
コスト従量課金制(長期利用はコスト増)初期投資が大きいが運用コストは安定
セキュリティデータ漏えいリスクありデータを完全にローカルで保持
リアルタイム処理ネットワーク遅延が発生する可能性低遅延での処理が可能

例えば、機密情報を扱う業務では、ローカルAIを優先することでデータを外部に出さずに管理できます。一方で、文章生成やデータ分析などの用途では、クラウドAIを利用することで、より高度なモデルを活用しながら、コストを抑えつつ柔軟に運用できます。

また、クラウドとローカルを組み合わせたハイブリッド環境を導入することで、状況に応じて最適な方法を選択することも可能です。例えば、日常的な処理はローカルAIで対応し、必要なときだけクラウドAIを活用するといった運用が考えられます。このように使い分けには、用途やセキュリティ要件に応じて適切な環境を選択することが重要です。

まとめ

生成AIの活用が進む中、データの処理方法やセキュリティ対策が重要な課題となっています。特に、クラウドAIを利用する場合は、データ漏えいや規制対応などのリスクを考慮しなければなりません。また、機密情報を扱う環境では、ローカルAIの活用も検討する必要があります。

こうした課題に対応するためには、クラウドAIを安全に利用するための閉域ネットワークや専用クラウドの導入、ローカルAIの適切な活用が有効です。用途に応じてクラウドとローカルを使い分けることで、セキュリティと利便性の両方を確保できます。

AIを導入する際は、自社のニーズに合った運用方法を検討し、適切な対策を講じることが重要です。安全かつ効果的なAI活用のために、クラウドとローカルの特性を理解し、最適な選択をしていきましょう。

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